シダ植物の系統分類     あいうえお順シダ植物の写真一覧   ノパの庭トップページに戻る

最近明らかになってきたシダ植物の分子系統を、
これまでの図鑑にのっていた分類と比較しながら、勝手にレビューします。
レイアウトが崩れる可能性があるため、画面を最大化してごらん下さい。
間違いの発見や、画像や情報の転載について⇒管理人まで
ご一報ください。

わかりやすくするために、原著論文に書かれている系統樹を
日本に自生するシダだけのものに改変しています(一部除く)。
多少正確さは欠きますが、参考程度にお楽しみください。
科の解説の文章は主に Smith et al. (2006) によります。

 

ウラボシ科 (Schneider et al. 2008)

約56属、1200種。従来ヒメウラボシ科とされていたシダ達や、
従来ホウライシダ科などに分類されていたカラクサシダは、
分子系統解析の結果、ウラボシ科に含められました。
ヌカボシクリハラン属(Microsorum)、イワヒトデ属(Colysis)、
オキノクリハラン属(Leptochilus)の3属やエゾデンダ属は、
まだ分類が整理されてなくて、中身がごちゃごちゃです。
カラクサシダノキシノブオオクボシダ

サジラン属 Loxogramme
ミツデウラボシ属Crypsinus
カザリシダ属Aglaomorpha
ビカクシダ属Platycerium
ヒトツバ属Pyrrosia
アオネカズラ属Goniophlebium
クラガリシダ属Drymotaenium
ノキシノブ属Lepisorus
トヨグチウラボシ
マメヅタ属Lemmaphyllum
オオクリハラン
クリハラン属Neocheiropteris
ヌカボシクリハラン属、イワヒトデ属、オキノクリハラン属
シマムカデシダ属Prosaptia
ヒメウラボシ属Grammitis
オオクボシダ属Micropolypodium
エゾデンダ属Polypodium
カラクサシダ属Pleurosoriopsis

 

イワデンダ科、コウヤワラビ科(Sano et al. 2000)

約15属、700種。コウヤワラビ属クサソテツ属は、
コウヤワラビ科に分類されました。シシガシラ科に近縁です。
また、キンモウワラビ属は現在はオシダ科に含められています。
ジャコウシダは、オオシケシダ属に含められました。
その結果、日本に分布するイワデンダ科植物は、ウスヒメワラビ属
Acystopteris、メシダ属Athyrium、シケチシダ属Cornopteris、
ナヨシダ属Cystopteris、オオシケシダ属Deparia、ヘラシダ属Diplazium、
イワヤシダ属Diplaziopsis、ウサギシダ属Gymnocarpium、イワデンダ属
Woodsiaの合計9属になります(日本の野生植物シダの分類に従う)。
これら9属は、将来的にはいくつかの科に分けられるかもしれないそうです。
イヌワラビイワヤシダウスヒメワラビ
フクロシダジャコウシダイブダケキノボリシダ

ヤマイヌワラビ
カラフトミヤマシダ
ヘビノネゴザ
テバコワラビ
イヌワラビ
ウラボシノコギリシダ
イッポンワラビ、シケチシダ
オオシケシダ属
ジャコウシダ(オオシケシダ属)
オオヒメワラビ
ミドリワラビ
オオヒメワラビモドキ
オオメシダ
ハンコクシダ
キノボリシダ
ヒロハノコギリシダ
クワレシダ
ヒカゲワラビ
ノコギリシダ
キヨタキシダ、ミヤマシダ
ナヨシダ
ウスヒメワラビ
ウサギシダ、エビラシダ
イワヤシダ
イワデンダ
フクロシダ
クサソテツ
コウヤワラビ
イヌガンソク
(シシガシラ科)
(ヒメシダ科)
キンモウワラビ(オシダ科)
(オシダ科、ツルシダ科、シノブ科、ウラボシ科)

 

ヒメシダ科 (Smith and Cranfill 2002)

大きく分けるか細かくわけるかによって、5〜30属に区別されます。
約950種。「日本の野生植物シダ」図鑑では、多くのヒメシダ科の
シダ達が広くヒメシダ属Thelypterisに分類されていますが、
右の系統樹は属がもっと細かく分類されています。
ヒメシダ属を広くとる場合、ミゾシダやアミシダだけを
別属で区別すると、ヒメシダ属が多系統になります。
アミシダナタギリシダオオコウモリシダ

イブキシダ (Pseudocycrosorus)
ナタギリシダ属 (
Pneumatopteris
コバザケシダ (
Sphaerostephanos
タイヨウシダ (
Glaphyropteridopsis
ヒトツバコウモリシダ (
Pronephrium
ホシダ (Cyclosorus)
アミシダ (Dictyocline)
ミゾシダ属 (Leptogramma)
ハシゴシダ属 (Parathelypteris)
ヤワラシダ属 (Metathelypteris)
ヒメシダ (Thelypteris)
ミヤマワラビ、ゲジゲジシダ (Phegopteris)
ハイミミガタシダ (Pheudophegopteris)
アラゲヒメワラビ (Macrothelypteris)

 

オシダ科、ナナバケシダ科
(Liu et al. 2007a; Liu et al. 2007b; Li et al. 2008)

この項では、オシダ科とナナバケシダ科を一緒に紹介したいと思います。
そのため、右の系統樹は、Liu et al. 2007aのものをベースに、
追加で2つの論文に載っている系統樹を管理人が勝手につなぎあわせた、
便宜的な系統樹です。参考程度にお楽しみください。
 
オシダ科は約40〜45属、1700種。ナナバケシダ科は8〜15属、約230種。
右図から、ナナバケシダ科はオシダ科とは別の系統であることがわかります。
ただし、サツマシダは、カツモウイノデ属Ctenitisと共にオシダ科に含められます。
また、従来ヘツカシダ科とされていたシダもオシダ科に含められました。
キヨスミヒメワラビ属Dryopsisは、カツモウイノデ属とは別系統で、
ホオノカワシダ属Nothoperanemaやオシダ属Dryopterisに近縁です。
イノデ属とヤブソテツ属は、お互いに入り混じってしまっています。
また、オリヅルシダの位置も学者によって微妙に違っています。
将来的に分類の整理がなされることでしょう。
ナナバケシダ科には、従来ツルシダ科に分類されていたワラビツナギ
含まれることが分かりました。
キンモウワラビ属Hypodematiumは、現在のところ一時的にオシダ科として
扱われているようですが、実際にはオシダ科ともナナバケシダ科とも系統が
異なっており、微妙な感じのようです。
オシダナガサキシダアツイタ
ホソイノデミカワリシダ(ナナバケシダ科)リュウキュウキンモウワラビ

タイワンヒメワラビ
ホウライヒメワラビ
ホオノカワシダ
キヨスミヒメワラビ属 Dryopsis
オオイタチシダ
イワヘゴ
ナガサキシダ
ナガバノイタチシダ
カナワラビ
ヤクシマカナワラビ
アツイタ属
オキナワキジノオ
サツマシダ (Ataxipteris)
ホラカグマ (Ctenitis)
イノデ
サカゲイノデ
サイゴクイノデ
カタイノデ
ヒイラギデンダ
ヒメカナワラビ
ヤシャイノデ
ミヤジマシダ
ホソバヤブソテツ
タチデンダ
ジュウモンジシダ
ツルデンダ
オリヅルシダ (Cyrtomidictyum)
ヤブソテツ
オニヤブソテツ
ナナバケシダ
ハルランシダ (Hemigramma)
カワリウスバシダ
ウスバシダ
ナガバウスバシダ
ワラビツナギ
(ツルシダ科、シノブ科、ウラボシ科)
(ツルキジノオ科)
キンモウワラビ

 

イノモトソウ科 (Schuettpelz et al. 2007)

約50属、950種。イノモトソウ属やミミモチシダ属の他にも、
ミズワラビや、ホウライシダ科シシラン科に分類されていた
シダ達が含められています。
ミズワラビは、ミミモチシダと近縁であることがわかりました。
タキミシダコハチジョウシダヤツガタケシノブ

イワガネゼンマイ属 Coniogramme
リシリシノブ属 Cryptogramma
ミズワラビ属 Ceratopteris
ミミモチシダ 属Acrostichum
タチシノブ属 Onychium
ギンシダ属 Pityrogramma
イノモトソウ属 Pteris
エビガラシダ属 Cheilanthes
ホウライシダ属 Adiantum
タキミシダ属 Antrophyum
シシラン属 Vittaria

 

コケシノブ科 
(Ebihara et al. 2007, Hennequin et al. 2006)

9属、約600種。日本には7属があります。右の系統樹の記号で、
 PT - Crepidomanes アオホラゴケ属
 Va - Vandenboschia ハイホラゴケ属
 Di - Didymoglossum マメホラゴケ属
 Pa - Arbodictyum ホソバホラゴケ属
 Ce - Cephalomanes ソテツホラゴケ属
 Ca - Callistopteris キクモバホラゴケ属
 H - Hymenophyllum コケシノブ属
を表します。コケシノブ属以外の8属は、まとめてマメゴケシダ属
Trichomanesとする場合もあるようです。基本的に従来の分類と
大きな変化はありませんが、カンシノブホラゴケがアオホラゴケ属
に移動しました。
マメゴケシダソテツホラゴケマメホラゴケ

PT, マツバコケシダ
PT, アオホラゴケ
PT, オオアオホラゴケ
PT, マメホラゴケ
PT, ヒメホラゴケ
PT, ウチワゴケ
PT, カンシノブホラゴケ
Va, ハイホラゴケ
Va, オオハイホラゴケ
Va, シノブホラゴケ
Va, ツルホラゴケ
Di, ゼニゴケシダ
Di, マルバコケシダ
Di, マメゴケシダ
Pa, ハハジマホラゴケ
Pa, オニホラゴケ
Ce, サキシマホラゴケ
Ce, ソテツホラゴケ
Ca, キクモバホラゴケ
H, コウヤコケシノブ
H, キヨスミコケシノブ
H, コケシノブ、ホソバコケシノブ
H, オオコケシノブ

 

ゼンマイ科 (Metzgar et al. 2008)

ゼンマイ属(Osmunda)、Leptopteris属、Todea属の3属、約20種。
ヤマドリゼンマイは、これ1種でOsmundastrumという属に区別される
こともあるようです。その場合、オニゼンマイやシロヤマゼンマイは
ゼンマイ属のままで、亜属で区別されるようです。
ヤマドリゼンマイシロヤマゼンマイヤシャゼンマイ

ゼンマイ
ヤシャゼンマイ
シロヤマゼンマイ (Plenasium)
オニゼンマイ (Claytosmunda)
Leptopteris属
Todea属
ヤマドリゼンマイ (Osmundastrum)

 

シダ植物全体の系統樹
(Smith et al. 2006)

最後に、Smith et al. 2006によるシダ植物全体の系統樹を示します。
注目点は、マツバラン科がハナヤスリ科と近縁な位置にあること、
トクサ科は真のシダ植物に含まれることなどです。
スギカズラコケカタヒバミズニラ
チャボハナヤスリマツバラントクサ

ヒカゲノカズラ科
イワヒバ科
ミズニラ科

ハナヤスリ科
マツバラン科
トクサ科
リュウビンタイ科
ゼンマイ科
コケシノブ科
ウラジロ科
ヤブレガサウラボシ科
フサシダ科
カニクサ科
デンジソウ科
サンショウモ科
キジノオシダ科
ヘゴ科
タカワラビ科
ホングウシダ科
コバノイシカグマ科
イノモトソウ科
チャセンシダ科
イワデンダ科
ヒメシダ科
シシガシラ科
コウヤワラビ科
オシダ科
ツルキジノオ科
ナナバケシダ科
ツルシダ科
シノブ科
ウラボシ科

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2009/1/2 updated;

引用文献

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